高齢者の方が安全でスムーズに車に乗り降りするためには、身体の曲げ伸ばしや、体重を支える動作の負担を最小限に抑える設計になっていることが重要です。

ここでは、乗り降りのしやすさに直結する車の構造的な特徴について解説します。

腰や膝への負担が少ない「シートの理想的な高さ」

乗り降りの際に、高齢者の方の身体へ最も負担をかける動作は、「座り込む動作」と「立ち上がる動作」です。
この負担を軽減するためには、シートの座面が理想的な高さにあることが大切です。

具体的には、座面が乗り降りする方の「膝の高さに近い位置」にあることが望ましいでしょう。

座面が低すぎると深く腰を曲げる必要があり、立ち上がる際にも「よっこいしょ」と力を入れる必要があります。

逆にミニバンのように高すぎると足を大きく持ち上げる必要があり、これもまた負担になりかねません。

SUVはセダンとミニバンのちょうど中間くらいの座面高さになっているモデルが多く、自然に腰を落とすことができます。
無理なく立ち上がれるため、高齢者の方に適していると言われています。

開口部が広く段差が少ない「ドアとフロアの設計」

乗り降りの動作をスムーズにするためには、ドアの開口部の広さも非常に重要です。

開口部が広いと、身体を斜めにしたり、変な角度にひねったりすることなく、まっすぐな姿勢で乗り降りすることができます。

また、ドアを開けた際の「フロア（床）の段差」が少ないことも、つまずきや転倒を防ぐために欠かせません。
ドアを開けてすぐ足元に大きな段差があると、足を上げなければならず、バランスを崩してしまうかもしれません。

フロアが地面に近い「低床設計」になっている車や、ドアとフロアの間に大きな隙間がない車を選ぶように心がけましょう。

身体を支えるために重要な「乗降用手すりの位置と形状」

乗り降りをする際に身体のバランスを保ったり、立ち上がる動作を補助したりするために、手すり（アシストグリップ）の存在は非常に重要です。

特に高齢者の方が車を選ぶ際には手すりが握りやすく、かつ適切な位置にあるかを実際に確認してみることをおすすめします。

理想的な手すりはシートに座る時や立ち上がる時に自然に手が届き、力を入れやすい形状をしているものです。

天井付近にある手すりだけでなく、ドアの内側などにも、身体を支えるための適切なグリップが付いているかどうかもチェックしてみましょう。

このちょっとした手すりの工夫が、日々の乗り降りの安心感を大きく高めてくれるかもしれません。

SUVは、その車高の高さや構造から、乗り降りのしやすさだけでなく、運転そのものや、乗車中の快適さにおいても高齢者の方に多くのメリットをもたらします。

特に、体力の低下や運転に対する不安を感じ始める時期に、その特性が役立つかもしれません。

視点が高く運転しやすい「アイポイントの高さ」

SUVの大きな特徴の一つは、運転席からの視点（アイポイント）が高いことです。

アイポイントが高いということは、前方の道路状況や周囲の交通状況をより遠くまで見渡せるということ。
これにより、運転中に起こりうる危険を早期に察知しやすくなります。

例えば、前方の渋滞や信号の変化、歩行者の動きなどを早めに把握できれば、ゆとりをもって運転操作を行うことができるでしょう。

また、視点が高いことで、運転席から車体先端までの距離感もつかみやすくなる傾向があります。

これは狭い駐車場での車庫入れや縦列駐車の際に車の見切りが良くなり、運転のストレスを軽減することにもつながります。

広い室内空間がもたらす「乗車中の快適性」

多くのSUVはセダンや一般的なハッチバック車に比べて、車内の天井が高く設計されています。

この高さのゆとりが乗車中に感じる圧迫感を和らげ、快適性を高めてくれるでしょう。

特に長時間運転する場合や同乗者がいる場合でも、ゆったりとした空間は大きなメリットになります。

また、後部座席も比較的足元のスペースが広く確保されているモデルが多いため、長距離のドライブでも窮屈さを感じにくいかもしれません。

さらに、車内空間にゆとりがあることで荷物の積み下ろしや、車内での姿勢の変更なども楽に行えるようになります。

例えば、ゴルフバッグや大きめの買い物袋などを積む際にも荷室の開口部が広いため、無理な体勢をとらずに済みます。

こうした余裕のある設計は高齢者の方の日常生活における車の利用を、より快適で便利なものにしてくれるでしょう。

ここでは、先に解説した「乗り降りしやすい構造」と「SUVのメリット」を兼ね備えた、高齢者の方に特におすすめできる国産コンパクトSUVモデルを3車種ご紹介します。

おすすめモデル1：トヨタ ヤリスクロス

トヨタのヤリスクロスは、扱いやすいコンパクトなサイズ感でありながら、SUVらしいデザインと高い実用性を両立させた人気のモデルです。

ヤリスクロスが乗り降りしやすい理由の一つは、そのシートの高さにあります。
座面の高さが高齢の方が無理なく腰を落とし、そして立ち上がれる理想的な位置に設定されています。

また、コンパクトなボディサイズのおかげで狭い駐車場や細い道でも運転しやすく、車体の感覚をつかみやすいことも日常の安心感につながるでしょう。

安全装備についても、トヨタの先進安全システム「Toyota Safety Sense（トヨタ セーフティ センス）」が搭載されており、昼夜の歩行者や昼間の自転車運転者にも対応する衝突被害軽減ブレーキなどが充実しています。

運転支援機能が充実していることは、運転に不安を感じる方にとって、大きなサポートになるはずです。

さらに、ハイブリッドモデルを選べば燃費性能にも優れているため、家計にも優しい選択肢となるかもしれません。

おすすめモデル2：ホンダ ヴェゼル

ホンダのヴェゼルはスタイリッシュなデザインと、ホンダ独自の「センタータンクレイアウト」による広い室内空間が特徴のコンパクトSUVです。

このセンタータンクレイアウトのおかげで、後部座席の足元スペースが非常に広くなっています。

足元にゆとりがあることは高齢者が後席に乗り降りする際、足を無理なく動かすことができ、身体をひねらずに座れるため、負担の軽減に直結します。

また、ヴェゼルはドアの開口部が広く、フロアの高さも比較的低く抑えられているため、乗り降りがスムーズに行える工夫がされています。

安全面ではホンダの安全運転支援システム「Honda SENSING（ホンダ センシング）」が多くのグレードで標準装備されており、高い予防安全性能を備えています。

特に、渋滞追従機能付きのアダプティブ・クルーズ・コントロール（ACC）などは、長距離運転や渋滞時のドライバーの疲労を大きく軽減してくれるでしょう。

おすすめモデル3：スバル フォレスター

スバルのフォレスターは他メーカーのコンパクトSUVと比べるとややサイズが大きいかもしれませんが、視界の良さと高い走行安定性、そして乗降時の安定性が高く評価されています。

フォレスターの特徴は車体の四隅が把握しやすいように設計されており、運転席からの見晴らしが非常に良いことです。

これはアイポイントが高いことに加え、窓が大きく設計されているため側方や後方の視界も確保しやすいことにつながっています。

運転席の乗り降りのしやすさにおいては、Aピラー（フロントガラス横の柱）部分に大型の手すりが装着されている点が大きなポイントです。

これにより乗り込む時や立ち上がる時にしっかりと身体を支えることができ、安定した動作が可能になります。

また、スバル独自の運転支援システム「アイサイト」はその高い精度と信頼性で知られており、予防安全性能を最重視する方にとっては非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

重心が低く設計されているため、背の高いSUVでありながらカーブなどでの揺れが少なく、安定して走行できることも同乗者の快適性につながります。

この記事では、高齢者の方が身体的な負担を少なく、安全に乗り降りできるSUVの選び方と、おすすめの具体的なモデルをご紹介しました。

SUVは、そのデザイン性だけでなく、高い視界や適切なシートの高さによって、高齢者の方にも多くのメリットをもたらす車種であることがお分かりいただけたかと思います。

ご紹介した「ヤリスクロス」「ヴェゼル」「フォレスター」は乗りやすさや運転のしやすさなど一定の基準をクリアしつつ、最新の安全運転支援技術を搭載しているため、安心感のあるカーライフをサポートしてくれるでしょう。

車を選ぶ際は、ぜひご本人やご家族と一緒に、実際に試乗して乗り降りや運転の感覚を確かめてみてください。
安全と快適性を両立した一台を選ぶことで、日々の移動がより楽しく、安心できるものになるかもしれません。